【連載】世界への挑戦! 坂口由里香のBeach Days
2023.05.09
ビーチバレーボール選手:坂口由里香
筋トレの効果を得るために筋肉痛は必須ではない|筋肉談議【後編】
国内個人ランキング3位*。坂口由里香さんはいま最も注目されているビーチバレーボール選手の一人です。世界を舞台に奮闘しながらパリ五輪を目指す坂口選手に、日々の練習やツアー先で体験したこと、また、坂口選手が実践しているビーガン食や、普段のフィジカルトレーニングについて「世界への挑戦!Beach Days」をつづっていきます。*2022年10月時点
写真:三井 公一
筋トレ後は水分で体重が増えるのが普通
筋肉やトレーニングについてざっくばらんに話す筋肉談議【前編】に続いて、今回の【後編】では「今さらだけど知りたい筋肉の基本知識」をテーマに、坂口由里香選手とトレーナーの殖栗剛志(うえぐり・たけし)さんに聞いてみました。最後に誰でもできる自宅でのトレーニングを教えていただきます。1日15分程度でできるトレーニング、皆さんもぜひやってみてくださいね。
取材は2023年1月、東京・日本橋にあるトレーニングルームにて、実際にトレーニングをしているところへお邪魔して行いました。
編集部:知ってるようで実はあまりよく知らないんじゃないか、みたいな筋肉の豆知識について聞きたいと思います。何かご紹介できることってありますか。
坂口:えー。何でしょうね。改めて言われるとぱっと思い浮かびませんね。でもさっき(トレーニング中に)殖栗さんが言ってた「筋肉には水分が含まれているから重くなる」って話は知らなかったです。
殖栗:筋肉は5~6割が水分だから、筋トレするとより水分が取り込まれて重くなるんですよ。それがパンプアップと呼んでいる現象。なので筋トレ直後は体重が増えていたりします。運動初心者の方が最初に体重が1~2㎏増えちゃうのもそのせいですね。
坂口:今日はめっちゃトレーニング頑張ったから体重減ってるだろうと思って、家で体重計にのると増えてるから、なんで? って結構ショックだったんですよね。でもそれは普通のことなんですね。
殖栗:そうそう。2日ぐらい経てば水分が抜けるから体重は戻ります。パンプアップする、水分がなくなる、パンプアップする、水分がなくなるを繰り返して筋肉は少しずつ大きくなるんです。
坂口:そうなんですね。とにかく重くなったのは水分のせいと聞いて安心しました(笑)。
筋肉痛は必須じゃない
編集部:筋トレ界隈では「乳酸」という言葉をよく耳にしますが、そもそも「乳酸」というのは何でしょうか。
殖栗:身体を使う時って筋肉を使ってエネルギーにするんですが、そのエネルギーをつくる過程で老廃物が出るんですよね。それが乳酸で、でも乳酸はその後またエネルギーに再利用されるんですよ。なのでひと昔前は「乳酸がたまって疲れてるんだよね」って言う人もいたんですが、今はそれは間違いだと解明されています。
身体っていうのはどんどん代謝して、新しいエネルギーに変わっていくものです。すごくざっくり言ってしまうと、筋トレをすると乳酸がたまって、ぱんぱんになって、それが1つの刺激になって、身体からホルモンが分泌されて、そこの部位に筋肉がつくという仕組みですね。
坂口:乳酸が出た方が筋肉がつくっていうこと?
殖栗:そう。だから乳酸を出すために筋肉自体に刺激を送らないといけないんです。今の筋肉量に対して、何回も上げ下げするのはちょっときついぐらいの重さのウエートレーニングを、何回もやることで乳酸が出る。それが刺激になって、例えば男性ホルモンだったり、脂肪を分解する成長ホルモンとかが出て、それで身体が変化していくイメージです。ホルモンが出て筋肉をつくらなきゃっていってる時に、たんぱく質が余分にある状態にしておくと吸収して筋肉が増えていきます。
坂口:だからたんぱく質をとれっていうことなんですね。
殖栗:女性だと日常生活で体重の0.8倍ぐらいでいいですよ(体重50㎏なら40g)、っていうのが一般的だと思うんですけど、トレーニングしている人だと日常生活でたんぱく質を使ってしまうので、筋肉をつくる分、ちょっと余分にとりたいですね。1~1.2倍とると筋トレしている意味が出てくる感じです。
編集部:あと筋トレをすると筋肉痛になることがありますが、筋肉痛が出たらトレーニングは休んだほうがいいんでしょうか。
殖栗:休まなくても問題ありません。あと、筋肉痛ってあってもなくてもちゃんとトレーニングができていれば筋肉ってつくんですよ。今は筋肉痛は必須じゃないって言われています。
坂口:え、そうなんですか。筋肉痛がないとちゃんと鍛えられてないと思ってました。
殖栗:筋肉痛は普段あまりやらない動きをしたり、普段よりかなり高い負荷をかけると出てきたりするので、今はトレーニングに筋肉痛は必須ではないんです。ただ翌日とかに、昨日のトレーニングはちゃんとできてたんだなっていう使った部位の確認になるのと、あとはやっぱり"やった感"があるよね。
坂口:やった感ある! 痛ててーって言いながら座って、昨日頑張ったからな~ってモチベーションになりますよね(笑)。
殖栗:僕も筋トレした翌日に筋肉痛になったら、きたーってなります(笑)。
編集部:筋肉痛がうれしいんですね(笑)。でもプロの皆さんでも筋肉痛になるんですね。
坂口:なりますなります。トレーニングは週2回やってますが、できるようになるとおもりの重さも上がっていくんで。練習前に筋肉痛がくるとつらい時がありますね。でも私は実際に身体を動かしてしまえば痛みは気にならなくなるんですけど、筋肉痛が嫌で試合前は追い込まない選手もいますよ。
メンタルが前向きになったり、発言が明るくなったり
編集部:坂口さんはまだ20代ですが、ビーチバレーボールの選手って40代の方もいますし、年齢が上がってくるとやっぱり身体が重く感じたり、キレが悪くなったり、変化があると思います。トレーニング方法も年齢に合わせて変えていくのでしょうか。
殖栗:そうですね。ベテランの選手ほどトレーニングに対する注文が多くなってくるんですよね。追い込むほど筋トレしたほうがいい選手でも、筋肉痛は嫌、と言われると難しいところがあったりします。だからどこかに落としどころをつくらないといけない。ベストではないけれど3番目4番目の手段を使っても、トレーニングはやらせたいっていうのが、年齢がいけばいくほど増えていきます。
編集部:疲れも取れにくくなりますよね。サッカー選手なんかはピーク年齢が早いと聞いたりします。
殖栗:そうですね。競技によっても違いがありますね。ビーチバレーボールの試合では経験則で有利になることが多いと思うんですよ、次のボールを読むとか駆け引きとか。サッカーは走る距離が長くて1試合に10~15㎞もの距離を走ります。ビーチバレーボールって、どちらかというとちょこまか動いてトップスピードには乗らないんですよね。そういう意味では負担が少ないっていうのと、あと2人の駆け引きがあるので、ボールも全力で打たないでぽんと軽く打ったりとか、ロスがあまりないんですよね。
坂口:確かにインドアのバレーボールと比べても肩とかは傷めにくいです。だからビーチバレーボールは選手寿命がインドアのバレーボールより長いですね。30歳を超えたらまた楽しくなるよって先輩には言われたりします。まだまだ先は長いです(笑)。
編集部:坂口さんは筋トレ自体はあまり好きじゃないんですか。
坂口:ぜんぜん好きじゃないです! 今は競技があるから頑張ってるけど、引退したらもうやりたくないですね......と言いつつやっていそうだけど(笑)。特に好きではないけど、トレーニングルームに行っちゃえばね......行ったらやるんだけど、それまでが憂うつですね。
自宅にいる時は午前の練習を終えて、お昼ご飯を食べて午後2時頃にトレーニングに行こうって思いながら、テレビドラマの「相棒」とかが始まっちゃうとつい観てしまって、あーもう3時になっちゃったから行かないとって、そういう感じです(笑)。
編集部:なるほど。殖栗さんはトレーニング自体を仕事にされていますが、筋トレは自分でもされるんですか。
殖栗:筋トレは好きですね。自分が学生の頃、野球をやっていた時に、筋トレをすることで球が速くなるとか、成功体験があったんですよね。だから、何というかトレーニングで世の中の大抵のことは解決できるんじゃないかって、そのままトレーナーになっちゃったので、まぁそんなにうまくはいかないこともありますが(笑)。でも、トレーナーとして「お前はできるのかよ」って言われないようにしたいとは思っています。
坂口:あー。「言うだけは簡単じゃん! 殖栗さんやってよ」って言われたら......。
殖栗:そう言われたらさらっとできるようにしてます。
坂口:確かにトレーナーだとその方がいいかも。
殖栗:仕事で高校や大学へ行くと、なんか言葉で言うより、選手たちより重いおもりをダンと1回上げればすべてを制することができるみたいな(笑)。
編集部:殖栗さんはスポーツ選手だけじゃなくて、一般の方たちをコーチされることもあるそうですが、どんな目的の方が多いんでしょうか。
殖栗:一番はダイエット、ボディーメイクが多いですね。
編集部:筋トレは毎日10分ずつとか、週に2~3日でも続けてやってみると、生きる自信みたいなのが湧いてくるような感じがします。活力が湧くというか。
殖栗:1カ月ぐらい継続して痩せたり、身体に変化が出てくると、メンタル面が前向きになったり、表情とか発言が明るくなってきたりする方がとても多いですね。男の人だとTシャツの袖のところが埋まってきたとか、1サイズ小さいTシャツを着てわざとぴちっとさせ始めたりとか(笑)。
編集部:見せたいんですね(笑)。でもその気持ちはすごく分かります。今回は自宅でできる筋トレを紹介してもらいますので、読者の皆さんにもぜひ実践してもらいたいですね。
殖栗:はい。目に見えて変化が出てくると楽しくなると思うので、やってもらえたらと思います。
レッツトライ! 自宅で簡単にできる筋トレ3種
トレーナーの殖栗剛志さんに、1種目5分程度の自宅で簡単にできる筋トレを教えていただきました。ポイントは「継続」。毎日、もしくは週に3日以上実践してみてください。継続することで、徐々に身体の変化が実感できると思います。どの種目も基本の回数は10回×2~3セット。自身の体力レベルに合わせて減らしたり、増やしたり調整してください。
●下腹部と股関節まわり
腹筋と股関節まわりの腸腰筋(ちょうようきん)を引き締めるトレーニングです。腸腰筋は脚を前に出す筋肉、歩幅などにも関係する筋肉です。
① 床に座ってから手を後ろにつき、指先を前に、脚を引き寄せる。腰を反ってしまうと腰を痛めるので、できるだけ丸めてお腹に力を入れて腹筋を意識する。
② お腹に力を入れたまま、引き寄せた脚を前に伸ばす。ここがスタートのポジションで、再度①のポジションまで脚を上げて引き寄せる。上げ始める初動が速くならないよう、ゆっくり動かすのがコツ。伸ばした状態から引き寄せるまでで1回カウント。これを10回繰り返す(10回1セットを2~3セット)。
●お尻と太腿裏
お尻と普段あまり使わない太腿(ふともも)の裏、ハムストリングスを鍛えるトレーニングです。太腿裏の柔軟性が上がり、お尻の形がきれいに整うので脚が長く見える効果も。
① 立った状態で片方の脚を曲げ、つま先を後ろに立てる。反対側の脚は曲げずに真っすぐをキープ。姿勢を真っすぐにしたまま、手のひらを太腿の上に置く。
② そのまま手で太腿を擦るようにして上体を前に倒す。この時背中が丸まらないように、胸を張ったままの状態をキープ。
③ 膝は少しなら曲げてOK(曲げすぎないように)。手が膝下~足首(できるところまで)に到達するまで上体を倒してから、手のひらで擦りながら来た道を戻るように身体を起こす。伸ばしている方の脚の裏が張るような感覚があれば正しい姿勢です。ここまでを1回とカウントし10回繰り返す。脚を入れ替えて同じように10回行う(両脚それぞれ10回で1セットを2~3セット)。
●背中、肩甲骨(けんこうこつ)まわり
家で鍛えるのが難しい背中のトレーニングです。背筋と肩甲骨まわりを鍛えて刺激することで、姿勢や肩こりの改善も期待できます。
① うつぶせに寝転んで脚は軽く広げて床につける。上半身を起こして手を上にあげる。その時に肩甲骨の部分をぎゅっと背中の中心へ寄せるようにする。頭は上がりすぎないよう、顎を引く。
② その状態から手を前に、肘(ひじ)が伸び切る状態まで伸ばす。顎(あご)を引いて上半身が下がらないように注意する。そして①の状態に戻す。この時に肩甲骨をぎゅっと寄せる。この動きを1回とカウントし10回繰り返す(10回1セットを2~3セット)。
※記事の情報は2023年5月9日時点のものです。
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【PROFILE】
坂口由里香(さかぐち・ゆりか)
小学3年生からインドアのバレーボールを始め、中学3年生で神奈川県代表選手に選出。高校3年生で神奈川県ベスト4入り、ビーチバレーはマドンナカップの神奈川県予選で優勝、全国大会で5位入賞。その後、2014年国内ツアー入賞をきっかけに本格的にビーチで活動、2018シーズンはビーチバレージャパンで決勝進出、2021年の国内ツアーでは優勝3回、準優勝1回、3位1回、2022年は開幕戦から国内で出場した大会は全て優勝し、9月の女子アジア選手権では5位入賞、10月のBeach Pro Tour モルディブ大会でも5位入賞した。勝負強さ、安定したパス、攻撃のバリエーションで、次代を担っていくプレーヤーとして注目される。
2019年 FIVB World Tour 1star インド大会2位
2019年 FIVB World Tour 1star ハンガリー大会1位
2020年 FIVB World Tour 1star グアム大会1位
2021年 ジャパンツアー平塚大会 優勝
2021年 松山大会 優勝
2021年 ファイナル大阪大会優勝
2021年 名古屋大会準優勝
2022年 立川立飛大会優勝
大洗大会優勝
平塚大会優勝
松山大会優勝
全日本女子選手権大会優勝
Beach Pro Tour モルディブ大会 5位入賞
2022年 7月 個人ランキング1位、10月 個人ランキング3位
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