【連載】SDGsリレーインタビュー
2021.08.06
上田壮一さん 一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー〈インタビュー〉
SDGsについて上田壮一さんに聞いてみた(後編)
Aktio Noteの新シリーズ「SDGsリレーインタビュー」の第1回はSDGsを学校教育に届ける活動「SDGs for School」を推進し、その教材書籍「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」を編集・発行した一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一さんに、そもそもSDGsってなに? という基本的な質問をしています。後編ではSDGsの本質的な部分、そしてSDGsを子どもと共に学ぶ重要性、さらに「誰ひとり取り残さない」という姿勢の重要さについてお話しいただきました。
前編はこちら
SDGsは万能ではなく、抜け落ちているものもある
――最近では企業のWebサイトには必ずSDGsについて語るページがあるぐらい浸透してきました。
確かにここ数年でSDGsの認知度は急速に高まりました。ただSDGsで示されたゴールを達成すれば、それでより良い世界が実現するわけではありません。SDGsは決して万能薬ではない。抜けていることがたくさんある、という認識も持っていた方がいいと思います。
例えば5番のジェンダーにLGBTの話は入っていませんし、7番のエネルギーに原子力発電の話は入っていません。16番の平和のところに銃規制の話も入っていない。3番の健康に途上国の感染症対策の話は入っていますが、人生100年時代の健康寿命についてなどは具体的には出てきません。
このようにSDGsは1つの道しるべであって、「これが全て」というものではありません。おそらく2030年以降にはまた新しいゴールが生まれてくると思いますし、そのときは、今生まれつつある新たな課題を取り込み、さらに先を目指していかなくてはならないと思っています。ですから「SDGsに入っていないからやらなくていい」のではなく、今現在SDGsに入っていない大事なテーマについて、今後を見据えて議論を積み重ねていくことが大切だと思います。
SDGs達成実現の主役は、イノベーションかもしれない
――人間は今まで農業革命や産業革命のような大きなイノベーションを起こすことで発展してきました。SDGsを考えたとき、そこにもイノベーションが必要ではないでしょうか。
おっしゃるとおりで、逆に僕はイノベーションしかないんじゃないかとも思っています。イノベーションと言ってもグッド・イノベーションであることが前提ですが、例えば生命科学のように、急激なスピードで進化している分野もありますし、科学技術だけじゃなくて、ビジネスモデルのイノベーションもあると思うんですよね。
例えば僕が尊敬する日本環境設計を見ていると、全領域でイノベーションを起こそうとしている。技術面ではプラスチックやポリエステルなどを石油の状態に戻すというケミカルリサイクルの技術を開発しました。回収面では既に100社以上がパートナーとなって古着を回収をするシステムを作っています。この回収を100%にするのは大きな課題だと思いますが、これらは技術の問題というよりビジネスモデル、あるいはプロモーションの分野の仕事かもしれません。その点でも、日本環境設計は、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の中でゴミで動くタイムマシーン「デロリアン」で主人公が設定した2015年10月21日という「未来」の日に合わせて、リサイクル燃料で動かすプロモーションイベントを開催して注目を集めました。
イノベーションを創出するためには、とにかくアイデアをどんどん出さないと先に進めないという思いがあり、Think the Earthで「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」という本を出しました。これはアイデアブックですが、アイデアはイノベーションの種ですから、これらを集めて共有することは大切だと思いますし、これまで誰も考えつかなかったアイデアで世界を変える人たちが出てくるのではないかと思っています。
未来を変える目標 SDGsアイデアブック
Think the Earth , 蟹江憲史(慶應義塾大学大学院 教授)他
また「サーキュラーエコノミー」*1という経済システムの概念があります。日本語にすると「循環経済」となりますが、これが実現すると、実はほとんどの問題が解決すると言われています。
例えば製品を企画する人、デザインや設計をする人、そして製造する人も、自分たちの製品が最後に捨てられると思って仕事をするのと、いつか自分たちに戻ってくると思って仕事をするのとでは意識が変わってきます。リユースまで考えることで、今までとは全然違う製品やデザインになるかもしれない。そういう大きな概念の変革が必要で、その新たな概念こそがシステム全体を変えるイノベーションを創出するのだと思います。
*1 サーキュラーエコノミー:3R(削減・Reduce、再利用・Reuse、再生・Recycle)を基本としながら、技術革新などを通じて資源循環を促すことで新たな価値を生むことを目指す経済活動やその体系のことを指す。
子どもたちと未来をつくる「SDGs for School」
――Think the Earthでは教師と子どものための「SDGs for School」という活動をされています。なぜ教育に力を入れているのでしょうか。
僕たちはすでにこの活動を20年ぐらい行っていますが、最初、教育は僕たちの活動のスコープには入っていませんでした。2003年に「1秒の世界」という本をダイヤモンド社と一緒に作ったのですが、ダイヤモンド社が90周年で、その記念事業の1つとして全国の全ての学校に1冊ずつ寄贈することになり、それ以降作った本を学校に送るというのが、定番になりました。
そして2013年に経済産業省の資源エネルギー庁との協働で、再生可能エネルギーを普及するプロジェクトが始まり、僕らはその教育分野を担当することになりました。そのときに「グリーンパワーブック」という本を作りました。この本のときは、それまでのように各校に1冊ずつ送るのではなく、欲しいという先生に手を挙げてもらって、1クラス分40冊ずつ送ったんですよ。無償で届ける条件として、この本を使った授業のレポートを提出してもらったのですが、その中で面白い授業をされている先生たちに会いに行ったり意見交換をしたりするうちに、だんだん教育現場への回路が開いてきましたし、教育の重要性に僕たち自身も気づくようになりました。
そして2017年に新しい学習指導要領が公示され、学校が持続可能社会の担い手を育てていくということが教育の目的の1つに入りました。しかも文部科学省は「開かれた学校」と言い始めた。それによって、これまで学校の枠の中にいた先生たちと具体的につながれる雰囲気ができ、子どもたちにもっと豊かな教育を提供したいと考えている先生たちとコラボレーションできるようになりました。今、ちょうどその変化の渦中にあって、教育がすごく面白いと思っています。
――サステナブルの定義に「次世代が幸せに暮らせる」とありましたが、教育は次世代に直接貢献するもので素晴らしいと思います。特に学童期にSDGsについて知ることは意義深いのではないでしょうか。
SDGsって医療で言えば薬のような対症療法的な策も打てるんですね。例えば寄付や補助金などがそれです。一方、教育はいわば体質改善のような根本治療です。長い時間はかかりますが、今から始めれば、新しいマインドを持った子どもたちが大きくなって、未来は大きく変わるのではないかと期待しています。
――20世紀育ちの我々は「なるべく安いものを大量に買った方が有利」といったマインドが染みついていて、それを直すのは大変です。しかし子どもの頃にSDGsの考え方が身についていれば「安価だけど環境負荷が高そうだから買うのをやめよう」といった意識が自然に持てるようになりますよね。
今は子どもが親を教育する時代だと思います。子どもたちはみんな、今の世界の仕組みがおかしいことは分かっています。だから学校などでSDGsを学ぶと、その通りだよねって言うんです。分かっていないのは自分たちの親だと思うらしいのです。ですからぜひお子さんとSDGsについて語り合ってほしいと思います。
SDGsで一番大切なのは「誰ひとり取り残さない」こと
――SDGsは17のゴールを示した上で「地球上の誰ひとり取り残さないことを誓う」とも言っています。個々のゴールに目が行きがちですが、実はこれが重要なステートメントではないでしょうか。
「誰ひとり取り残さない」ことは、まさに強調しても強調したりないぐらい重要です。もしこれがなければSDGsの意義なんてどこかへ飛んでいってしまう気がします。よく言うのですが、SDGsは今幸せな人をより幸せにするためのものではありません。今不幸せな人や困っている人たちをどうやったら幸福にできるかをみんなで一生懸命頑張って考えるゴールです。
それなのに「より良い企業になるためにSDGsに取り組みます」とか「我が社は既にちゃんとやってます」みたいなことだけを表明して終わってしまいがちです。大事なことは、課題に対して誰を笑顔にするのかを考え、「今できていること」ではなく「今できていないこと」をしっかり把握すること。その上で常識を疑い、課題解決のために新しいパートナーシップを模索し、アイデアを出し、行動していくことです。それがなければSDGsは単なる絵空事になってしまいます。
――「誰ひとり取り残さない」というコンセプトは大きな意識改革だと思います。20世紀的な枠組みでは、先に進んだ人が勝者であり、残された人は敗者で、それは自己責任という言葉で語られがちですよね。でもSDGsは地球そのものを対象にしたグローバルな目標ですから、優秀な人だけが達成しても意味がない。だからこそ「誰ひとり取り残さない」が重要なんですね。
はい、まさに意識改革が必要なんだと思います。そのためには概念だけでなく「誰ひとり取り残さない」活動をしている方のリアルな現場に関心を持つことも大切です。
先日Think the Earthが主催しているオンラインスクール「未来を変える学校」に、認定NPO法人「おてらおやつクラブ」代表理事の松島靖朗さんに講師として来てもらいました。例えば日本にも貧困の問題は確実にあるのですが、貧困に陥っている人たちは自分からは声をあげにくいので、社会の中で見えづらい。「誰ひとり取り残さない」の「誰」が見えないんです。
でもそんな人たちもお寺には言いやすいというところがあって、お寺には来てくれる。「助けて」という声をあげてくれる。そして世の中には助けたいという人もいる。私たちは、助けたい人と、助けてほしい人をつないでいるんです、ということをおっしゃっていたんですね。これは「こども食堂」も同じです。だから「誰か」が見えにくいとき、僕らは「おてらおやつクラブ」や「こども食堂」を支援することで、見えにくい人たちを支援することができる、どこを支援すればいいかが見える化されるだけでも、行動を促す効果があると思います。
――今までの経済原理とは、違うマインドセットにしないといけないですよね。
「誰ひとり取り残さない」ということは、言うは易しですけど、本当にやろうと思うと大変なことです。「貧困をなくそう」をテーマにしたクラウドファウンディングなど、今までにない別のお金の回路ができつつあることも1つの希望だと思っていますし、教育の中で「誰ひとり取り残さない」ことの重要性を子どもたちに意識してもらうこと、子どもたちと一緒に大人が学ぶことも、とても重要だと考えています。
――SDGsのこと、大変勉強になりました! ありがとうございました。
※記事の情報は2021年8月6日時点のものです。
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【PROFILE】
上田 壮一(うえだ そういち)
一般社団法人Think the Earth 理事/プロデューサー。1965年、兵庫県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。広告代理店勤務を経て、2000年に株式会社スペースポート、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、プラネタリウム映像「いきものがたり」、書籍「百年の愚行」、「1秒の世界」、「グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門」ほか多数。2017年にSDGsの教育普及プロジェクト「SDGs for School」を開始し、書籍「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」を編集・発行した。多摩美術大学客員教授。
Think the Earth
https://www.thinktheearth.net/jp/
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