【連載】SDGsリレーインタビュー
2022.09.27
窪田亜由美さん 株式会社OGICO 代表取締役〈インタビュー〉
捨てられてしまうコーヒー豆のかすを利活用。体にも環境にもやさしいボディースクラブ
株式会社OGICO(オギコ)が運営するコスメブランド「HUG BROWNE(ハグ・ブラウン)」では、捨てられてしまうコーヒー豆のかすをアップサイクル*1し、ボディースクラブにして販売しています。株式会社OGICO代表取締役の窪田亜由美さんに、開発の背景やスクラブへのこだわりについてうかがいました。取材は窪田さんの夫が経営するコーヒーショップ「THE LOCAL TOKYO:ザ・ローカル・トウキョウ」(東京都渋谷区神宮前)で行いました。
*1 アップサイクル:本来捨てられるはずのものに新たな価値を与え、さらに価値の高いものへと生まれ変わらせる仕組み。
こだわり抜いたコーヒー豆が1杯飲んだだけでごみになってしまうのはもったいない
──原料からパッケージまで、環境への配慮やこだわりを感じますが、以前から環境問題に対する意識はあったのですか。
意識が強いわけではなかったのですが、実体験として感じるものはありました。私は福島県の会津若松市出身で、父親が農家だったので、小さい頃、川や田んぼに入って遊んでいて、きれいな自然があるのが当たり前の環境で育ちました。
18歳になって東京に出てきた時、今までと同じように川遊びしようと川に入ったら、私のほかに誰も入っていないし、ぬるぬるしていて「東京の川、汚い!」とびっくりして(笑)。あの頃の環境は当たり前ではなかったんだなと実感しました。
その後、2017年くらいにウミガメの鼻の穴からストローが出てきたという、とてもショッキングなニュースが世界中に広まって、プラスチックごみや海洋汚染といった問題を意識し始めました。
──コーヒー豆のかすに着目されたきっかけを教えてください。
夫がコーヒーショップ「THE LOCAL TOKYO」を経営しており、日々コーヒーが身近にあったんですね。店がこの場所(東京都渋谷区神宮前)に移転する前は、1階がカフェで2階が事務所でした。私は2階の事務所へ仕事をしに行って、合間にコーヒーをよく飲んでいました。
バリスタがこだわって豆を選別しているのを目の当たりにして、こんなに情熱をかけて選び抜いた豆がコーヒー1杯飲んだだけでごみになっちゃうのって、もったいないなと思い始めたんです。じゃあ何か生かせるものはないかなと考えた結果スクラブを思いつき、2020年にコスメブランド「HUG BROWNE」を立ち上げました。
──ブランド名「HUG BROWNE」にはどのような意味が込められているのですか。
「HUG」は抱きしめる、「BROWNE」はコーヒーや土から由来しています。「BROWNE」のつづりに本来「E」は不要ですが、「Earth=地球」と寄り添うという意味を込めて、「E」を付けました。これは後から言われて気づいたのですが、「E」を付けることで、発音が柔らかくなるらしいですね。「楽しくハッピーに美容と環境配慮の両立をさせる」ことを理念としていて、見せかけのきらびやかさを追求するのではなく、地球と寄り添いながらみんなが美しくなりたいと思う夢を叶えたい、そんな意味を込めています。
試行錯誤を繰り返し、約2年かけてスクラブを開発
──「HUG BROWNE」を立ち上げる前、2017年に株式会社OGICOを設立されていますが、設立当初からそのアイデアはあったのでしょうか。
会社設立当初はまったく別の事業を行っていました。夫はコーヒーショップのほかにウェブの制作会社も経営しているので、料理動画を撮影するとか夫の仕事を手伝っていました。2018年くらいからスクラブを作ろうと思って、約2年かけて研究を重ね開発しました。化粧品を作ること自体初めてだったので、何から始めればいいか分からないというところからのスタートで大変でした。
──初めはご自身で実験しながら開発したのですか。
最初は電子レンジで実験しました。コーヒーが抽出された直後のかすに砂糖とはちみつとココナッツオイルを混ぜて、電子レンジで温めて。実際に自分の体に塗って、お湯で落としてみると、初めはベトベトで気持ち悪かったです(笑)。このベトベトを解消するために市販のスクラブでは乳化剤を入れるのですが、当時はその知識もありませんでした。
──現在はどのように作っているのですか。
まず「THE LOCAL TOKYO」でエスプレッソを抽出後、豆のかすを鮮度の高い状態のまま回収して、低温でじっくり乾燥させます。湿度が0%になるまでパウダー状にして減菌処理を行ったら、低温・短時間でほかの原料と混ぜ合わせて、ガラス瓶に入れて完成です。
──開発段階では、特にどんな点に苦労しましたか。
OEM*2を請け負ってくれる化粧品会社を見つけることに苦労しました。基本的にOEMの会社はコンセプトだけ伝えれば、全部お任せで作ってくれるというケースが多いのですが、日本の化粧品ってものすごく安全性の基準が高くて、原材料など厳しいチェックをクリアしないといけないんです。コーヒー豆のかすでスクラブを作るというのは日本で初めての取り組みで前例がなかったので、いろんな会社から嫌がられました。あとはスクラブを作るには大きな窯(かま)が必要なのですが、窯を持っている工場自体が少なかったですね。
作ってもらえそうな会社に手当たり次第、電話をかけて「こういうのやりたいんですけど、できませんか?」と頼み込み、ほとんど断られて......という繰り返しでした。構想から2年経ち、ようやく私が作り上げたいものを作ってくれる会社を見つけて、今作ってもらっています。委託先の会社や工場が決まった後も、なかなか思うような仕上がりにならず、試行錯誤でサンプルを何回も作っていただきました。
*2 OEM(Original Equipment Manufacturing):委託を受けて他社ブランドの製品を製造すること。
原料は全て植物由来。ごみの出ないパッケージ設計
──そうして開発したボディースクラブ「エスプレッソボディショット」。原料へのこだわりや商品の特徴を教えてください。
全て植物由来のもので作っているところがこだわりです。プラスチックスクラブ、シリコン、動物性原料、合成着色料、合成香料などは使用していません。コーヒー豆以外には、サトウキビ、てん菜、菜種、パーム、ヤシ、トウモロコシ、馬鈴しょ(ジャガイモ)、甘しょ(サツマイモ)を使用しています。
コーヒー豆は、バリスタが選りすぐった良い豆のみを配合しています。エスプレッソ用の豆で挽きが細かいので、肌にあてたときにとても柔らかいのが特徴です。スクラブって塩を使うのが一般的で、粒が大きいので、ザリザリして痛かったりするじゃないですか。でもこれはエスプレッソ用の豆と砂糖で作っているので、あんこよりも少し柔らかいくらいのペースト状で、肌にやさしいです。何と言っても使用感が自慢で、使って洗い流した後、肌がツルツル、モチモチになります。
また2021年4月からは、売上金の1%を「認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BTCJ)*3」に寄付しています。寄付金はマレーシアのボルネオ島の熱帯雨林や動植物を守る活動に役立てられます。
*3 認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BTCJ):マレーシアのボルネオ島で生物多様性保全、熱帯雨林保護の活動を行う環境団体。2008年に設立。分断されてしまった熱帯雨林をつなげて、動物の生息範囲を取り戻す「緑の回廊プロジェクト」や、野生ゾウの保全活動を援助する「恩返しプロジェクト」などを行っている。
──寄付しようと思った背景には、何かきっかけがあったのでしょうか。
パームオイルの問題を知ったからです。パームオイルは年間約7,000万トンと、地球上で最も生産されている植物油です。アブラヤシという植物から取れる油で、アイスクリームや粉ミルクといった食料品、シャンプーや化粧品など、あらゆるものに使われています。安く大量に生産できるから、生活に欠かせないものになっていますが、この生産によって、熱帯雨林の破壊や気候変動、動植物の喪失など、さまざまな問題が起こっているんです。
弊社のスクラブにも、パームオイルの原料が一部使われていることに気づき、自然を壊すものを使用している企業の責任として、BTCJへの寄付を始めました。
──パッケージにも環境への配慮が施されているのですよね。
とにかくごみが一切出ないように設計しています。容器は使い終わったらリサイクルできるガラス瓶にしました。これも工場の方に交渉して、「ガラス瓶にしてください!」とお願いすると、「やめた方がいい。お風呂場で使うから割れたら危険」と反対されたりして。何度もお願いして何とか納得してもらいました。ただやはりガラス製品ですので、取り扱い上の注意としても記載しておりますが、瓶の扱いには十分ご注意ください。
また、瓶のふたによくかぶせる透明のフィルムも、プラスチックなので付けていません。あとは化粧品って紙の箱に入っていることが多いと思いますが、それも結局ごみになるのでやめました。ただ、化粧品は法律でパッケージに内容量や成分などの必要な情報を記載しなければならないので、ガラス瓶に直接印刷しています。そうすることで、外箱もプリントシールも不要になり、無駄な資源を使わなくて済みます。使い終わったら洗って何かに再利用してもらえるように、計量の目安となる目盛も入れました。
──BTCJ への寄付やごみを出さないパッケージは、SDGsのゴール12「つくる責任 つかう責任」を果たすことにもつながりますね。どんなときに使うのがおすすめですか。
ぜひ好きなときに使ってください。明日は特別な日にしたい、今日は元気な朝にしたいというときに使うのが特におすすめです。目の周りだけは避けてほしいですが、基本的に体のどこにでも使えます。ふたを開けるとコーヒーと黒糖のほんのり甘い香りが広がるので、疲れちゃったなとか、元気がほしいなというときに使うと、気分のリフレッシュになると思います。
ふと立ち止まって、環境問題を考えるきっかけに
──コーヒー豆のかすのアップサイクルとしては、ほかにどのような事例があるのでしょうか。
植物のこやし、肥料にするのが多いみたいですね。コーヒー豆のかすは水分を多く含んでいるので、すぐに腐っちゃうんです。だからそれを利用して、土と混ぜて発酵させて栄養たっぷりの肥料にするという取り組みは増えてきています。化粧品にするのはなかなかハードルが高くて、日本ではほかにまだ聞かないです。
海外だと、コーヒー豆のかすからパームオイルの代わりとなる油を取るというプロジェクトを進めている会社があります。めっちゃいいな! と思って注目しています。
──まだまだ可能性が広がりそうですね。窪田さんご自身は現在、何かほかの商品展開を考えているのですか。
今、ウクライナ紛争や貿易摩擦といった世界情勢の変化によって、原料自体が取れなかったり、値段が高騰していたりするので、なかなか次の一手が出ない状況ではあります。ただとにかくやりたいと思ったことはどんどんチャレンジしたいと思っています。
──「エスプレッソボディショット」の販売を通して、どんなことを実現したいですか。
この商品を買ってくれた人がふと立ち止まって、環境問題を考えるきっかけになったらいいなと思っています。実際にそういう話をすると、「知らなかった」と言ってくださる方もいらっしゃいます。身近なところから環境問題に気づいてもらえたらうれしいです。
──「エスプレッソボディショット」は、コーヒーと黒糖の香りに癒やされる、とても使い心地のいいスクラブでした。本来捨てられてしまうものをさらに価値のあるものへと変える。身近にあるものも、視点を変えると新しい活用方法が見えてくるかもしれません。窪田さんの思いが多くの人に届くことを願っています!
※記事の情報は2022年9月27日時点のものです。
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【PROFILE】
窪田亜由美(くぼた・あゆみ)
福島県会津若松市出身。2005年、イトキン株式会社へ入社し、婦人服の販売業務に携わる。2006年、GMOインターネットグループ会社へ入社し、アライアンス事業・広告事業に携わる。2016年、アメリカ・ロサンゼルスへ短期留学。2017年に帰国後、株式会社OGICOを設立。2020年5月、サステナブルコスメのブランド「HUG BROWNE」を立ち上げる。同年9月、アップサイクルコーヒー豆を使用したコーヒーシュガーボディースクラブ「エスプレッソボディショット」 の販売を開始。ブランド公式サイトや、東京・渋谷にあるコーヒーショップ「THE LOCAL TOKYO」などで販売している。
■HUG BROWNE
「楽しくハッピーに美容と環境配慮の両立をさせる」を理念に、ボディーケア製品を提供する東京のコスメブランド。 資源を無駄にしないこと、プラスチックを使わないこと、コスメとしてしっかり楽しめることの3つを大切にしている。
HUG BROWNE 公式サイト
https://hugbrowne.com/
※2023年2月末よりブランド休止中です。
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