視覚――色を見て癒やされる温泉

DEC 26, 2023

小松 歩 視覚――色を見て癒やされる温泉

DEC 26, 2023

小松 歩 視覚――色を見て癒やされる温泉 色彩豊かな温泉につかり、湯色や景色を見ながら身も心も休める――。温泉ライターの小松 歩(こまつ・あゆむ)さんに、創造性を養うための五感を刺激する温泉をご紹介いただく連載「五感で味わう、癒やしの温泉旅」。今回のテーマは、「色を見て癒やされる温泉」です。

こんにちは。今までに全国2,500か所以上の温泉に入ってきた温泉ライターの小松 歩です。この連載では「五感で味わう温泉」をテーマに、お湯そのものが持つ魅力で、感性が喜ぶ温泉を発信していきます。第2回のテーマは「視覚」。湯色や景色を楽しめる温泉をご紹介します。



オレンジのにごり湯とダークブルーの日本海にスカイブルーの空! 絵画のようなコントラストが美しい「黄金崎不老ふ死温泉」

黄金崎不老ふ死温泉」は、青森県の日本海側、深浦町にたたずむ一軒宿。温泉はもちろん、新鮮な海の幸など地元の食材を楽しめるお宿です。


「黄金崎不老ふ死温泉」の外観「黄金崎不老ふ死温泉」の外観


白とクリーム色を基調としたモダンな外観の建物は、海まで数メートルの立地。本館と新館が横並びの長々としたつくりです。


館内フロント付近の全景館内フロント付近の全景


約70室ある客室は、なんとすべてがオーシャンビュー。窓を開ければ、潮風や波の音、潮の香りが一気に押し寄せ、それだけで旅情を高めてくれます。


宿泊した和室宿泊した和室


まずはお食事の紹介から。この日の夕食は、ホンマグロ、ハマチなどのお造り、ホタテの浜焼き、マトウダイ味噌漬け焼き、海鮮陶板焼き、活アワビの踊り焼きなど、評判通りの海鮮尽くしのメニューでした。


海の幸をふんだんに使った夕食一例海の幸をふんだんに使った夕食一例


黄金崎不老ふ死温泉は、漁網や漁船を持つ「網元」でもあり、海産物の種類の豊富さと鮮度の良さは特出しています。


ホンマグロ、ハマチ、スズキ、タコのお造りホンマグロ、ハマチ、スズキ、タコのお造り


活アワビは字のごとく生きたままで、逃げないようにアワビの上に置かれたガラスケースにへばりつき元気よく移動している様は、愛らしい姿でした。そんなアワビに情が移り、食べるのが申し訳なかったですが、心を鬼にして器に火を入れます。出来上がると、すっとナイフが入るくらいやわらかく、プリっと弾力のある食感と、海の旨味が凝縮された味わいは絶品でした。


活アワビの踊り焼き活アワビの踊り焼き


そのほか、青森県産米「つがるロマン」や、弘前産のりんご酒、ふかうら雪人参のシャーベットなど、地元の食材をふんだんに使った料理を堪能することができます。


つがるロマンは2023年度産を最後に販売終了予定。2024年以降、宿で提供するお米の銘柄については検討中とのこと(2023年12月現在)。


ふかうら雪人参のシャーベットふかうら雪人参のシャーベット


お風呂は、内湯のみの本館大浴場「黄金の湯」、内湯と露天風呂完備の新館大浴場「不老ふ死の湯」と、波打ち際にある「海辺の露天風呂」の3か所。2つの源泉を有していますが、泉質はどちらも同じ、含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉です。


海水並みに濃い塩分濃度の温泉で、舐めると強烈に塩辛いのが特徴。その塩分がお肌をベールのように包み込むことで、保温と保湿効果は抜群です。鉄分も多いことから、それが空気に触れてエイジングすることで、鮮やかな「オレンジ色」のにごり湯に深化します。源泉温度が高いため、加水こそしていますが、それぞれのお風呂で循環しない「かけ流し」で提供されているのが嬉しいポイントですね。


本館大浴場「黄金の湯」の全景本館大浴場「黄金の湯」の全景


新館大浴場「不老ふ死の湯」露天風呂の全景新館大浴場「不老ふ死の湯」露天風呂の全景


不老ふ死温泉のハイライトといえる「海辺の露天風呂」は、ひょうたん形の混浴風呂と楕円形の女性用風呂の2か所。本館から外に出て30メートルほど歩いた先にあります。眼前に広がる日本海からは波の音や潮風、潮の香りをダイレクトに感じられ、その臨場感は圧巻です。


「海辺の露天風呂」混浴風呂の全景(写真提供:黄金崎不老ふ死温泉)「海辺の露天風呂」混浴風呂の全景(写真提供:黄金崎不老ふ死温泉)


「海辺の露天風呂」女性用風呂の全景。宿泊した日はあいにくの悪天候で「混浴風呂」は閉鎖されていましたが、代わりにこちらが混浴として開放され入浴することができた、貴重な経験でした「海辺の露天風呂」女性用風呂の全景。宿泊した日はあいにくの悪天候で「混浴風呂」は閉鎖されていましたが、代わりにこちらが混浴として開放され入浴することができた、貴重な経験でした


海の1メートル手前につくられた湯船には、「オレンジ色」のにごり湯がたっぷり注がれ、まぶしいくらいに輝いています。そんな温泉につかりながら海へ視線を上げると、ダークブルーの海と、スカイブルーの空のコントラストが美しく、絵画のような絶景が広がっています。この芸術的な景色を望みながらの湯浴みは、心の汚れやトゲがスーッと磨かれて洗い流される感覚に。なんだか日々の悩みがちっぽけに感じ、そんなことどうでもよく思えてくるから不思議なものです。


宿泊者限定の時間帯で運が良ければ、日本海に沈む夕陽を見られる(写真提供:黄金崎不老ふ死温泉)宿泊者限定の時間帯で運が良ければ、日本海に沈む夕陽を見られる(写真提供:黄金崎不老ふ死温泉)




透明度3センチの濃厚ブラック温泉! 東京・品川にある都会派デザイナーズ銭湯「北品川温泉 天神湯」

東京都品川区にある「北品川温泉 天神湯」は、都会のど真ん中に位置する温泉銭湯。東京屈指のターミナル駅である品川駅からわずか2駅の京急線「新馬場(しんばんば)駅」下車、徒歩3分ほどのところにあります。私が10年前にこちらで働いていたこともあり、個人的に大変思い入れのある銭湯です。


新馬場駅前商店街の通り新馬場駅前商店街の通り


大通りに面した11階建てマンションの1、2階が「北品川温泉 天神湯」。築十数年のマンションは都会的な外観ですが、銭湯部分は木のぬくもりと風情を活かしたシンプルモダンなデザインです。


「北品川温泉 天神湯」の外観「北品川温泉 天神湯」の外観


「天神湯」のロゴデザイン「天神湯」のロゴデザイン


館内は、まるで高級ホテルのロビーやバーのような、格式高い落ち着いた雰囲気。2009(平成21)年のリニューアル時に、銭湯設計の先駆者に設計を依頼し、高級ホテルで使用されている「噴水」を導入するなど、こだわり抜いた空間です。ここ数年、都内でも増加している「デザイナーズ銭湯」の先駆けといわれています。


館内の休憩処館内の休憩処


デザインタイルや噴水、照明にこだわった空間デザインタイルや噴水、照明にこだわった空間


1階の番台(受付)で入浴料を支払い、お風呂のある2階へ。男女別の大浴場は、それぞれ内湯と半露天風呂があります。内湯には白湯(普通のお湯)のあつ湯、ぬる湯、ジェットバスの3種類があり、半露天風呂には自家源泉の温泉が使用されています。


明るいタイルと天然石がふんだんに使用された内湯の浴室は、スタイリッシュで高級感が漂います。吹き抜けのように高く設計された天井は、湯船につかると目線が広がるように工夫され、マンション内とは思えない広々としたラグジュアリーな空間を演出しています。


「男女別内湯」の全景「男女別内湯」の全景


そんな内湯の先にある半露天風呂。そこに注がれる温泉は、まるで「コーヒー」のような黒いお湯です。手を入れると3センチほどで見えなくなる濃度のお湯は、入浴すると暗黒なブラックホールに吸い込まれているような不思議な感覚。入浴していると、雨上がりの芳ばしい土に似た香りが鼻孔をくすぐり、ヌルヌルととろみのある感触に全身が包みこまれ、ブラックで心地よい世界に落ちる新体験な癒やしを感じられます。


「男女別半露天風呂」の全景「男女別半露天風呂」の全景


泉質は、ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉。「美肌の湯」といわれる泉質で、成分が石鹸と同じ役割を果たし、余分な皮脂や汚れを分解する効果があります。


また、この「黒さ」の秘密は、植物性の有機物であるフミン酸などを総称した「腐植質」が含有されているため。これは太古の木の葉や海藻などの植物が、何百万年もかけて有機酸に分解されたもので、アミノ酸を多く含むことから保湿効果に優れ、天然の「美容液」ともいわれています。


実はこの泉質、都内では大田区蒲田エリアなど数多く湧いているもので、その湯色から「黒湯」と呼ばれて親しまれています。その中でも天神湯のお湯の「漆黒度」は屈指のものです。


手ですくっても黒さが分かる漆黒のお湯手ですくっても黒さが分かる漆黒のお湯




神秘的なミルキーブルーの硫黄泉! 那須野ヶ原を一望できる圧倒的な開放感「松川屋 那須高原ホテル」

栃木県那須町の那須高原エリアに湧く那須湯本温泉。開湯は630年ごろと約1,400年の長い歴史を持ち、現在でも十数軒の旅館やホテルが建ち並ぶ温泉地です。「松川屋 那須高原ホテル」は、そんな温泉街のメインストリートから1本それた道の先にある高台に建っています。


「松川屋 那須高原ホテル」の外観「松川屋 那須高原ホテル」の外観


リゾートホテルを想わせる8階建ての建物は、那須湯本温泉で最大規模を誇ります。重厚かつ温かみのある外観に、懐かしさを感じる洋風レトロな館内は、江戸時代創業の歴史を感じる趣きがあります。


館内フロント付近の全景館内フロント付近の全景


お風呂は、内湯と露天風呂からなる男女別大浴場と、2か所の貸切風呂。大浴場の内湯は、タイルの床と石づくりの浴槽が配されたシンプルで風情ある広々とした空間。大きな窓からは那須の山々の緑が眺められます。


「男女別内湯」の全景「男女別内湯」の全景


20人は一気に入れそうな湯船には、薄乳白色の温泉が加水も加温も循環もせず「源泉かけ流し」で提供されています。


内湯の「湯口」。白い湯の花がたっぷりと付着している内湯の「湯口」。白い湯の花がたっぷりと付着している


露天風呂に出てみると、高台から那須野ヶ原を一望できるロケーション。ウッドデッキ調の四角い湯船には、内湯と同じく「源泉かけ流し」で湯が注がれています。その湯色は神秘的なミルキーブルーのにごり湯。ここに身を浸しながら空を見上げると、まるで天空にいるかのような開放感は、リフレッシュの極地でした。


「男女別露天風呂」の全景「男女別露天風呂」の全景


泉質は、男性用浴場は単純酸性硫黄温泉(硫化水素型)。那須湯本温泉の伝統的な源泉「鹿の湯」を引湯し、何の加工もせずに湧いたまま利用しています。泉質通りの硫黄(硫化水素)の香りが温泉情緒を高めてくれ、舐めてみると程よい酸味と甘味で、薄めたレモン水のような味わいでした。硫黄の成分はとても濃厚で、湯口まわりや湯の中には、白い「湯の花」が可愛らしくひらひらと舞っています。この成分が美しいミルキーブルーの色合いを作り出してくれているのですね。


天空を見上げる圧倒的な開放感天空を見上げる圧倒的な開放感


温泉に入りリフレッシュすれば、自然とお腹も空いてくるものです。松川屋 那須高原ホテルは、現在日帰り入浴のみの営業(宿泊営業は2024年4月再開予定です)。そのため、湯上りの食事は温泉街の近くで食べることにしました。


私のおすすめは、松川屋 那須高原ホテルから車で5分ほどの距離にある「ステーキハウス寿楽 本店」。こちらは、地元産の「とちぎ和牛」などを取り扱う、創業70年のお肉屋さんが経営するお店です。


「ステーキハウス寿楽 本店」の外観「ステーキハウス寿楽 本店」の外観


注文した「那須和牛サイコロステーキ」は、分厚いサイコロカットのお肉で食べ応えがあり、それでいてやわらかく、脂身の甘味と旨味のバランスが絶妙で、無心で食べきってしまいました。食後は、満腹感以上に心の満足感がひとしおでした。


「那須和牛サイコロステーキ」(写真提供:ステーキハウス寿楽 本店)「那須和牛サイコロステーキ」(写真提供:ステーキハウス寿楽 本店)


泉質の種類 ~後編~

全3回の連載でご紹介する温泉の泉質について解説するコラム。「触覚――感触を楽しめる温泉」で解説した、硫黄泉、二酸化炭素泉、単純温泉、硫酸塩泉に続き、今回も4つの泉質を解説します。


■含鉄泉

  • 特徴:鉄の香りがあり、空気に触れると、鉄の酸化が進み赤褐色になります。
  • 温泉:黄金崎不老ふ死温泉
  • 定義:温泉水1kg中に総鉄イオン(鉄Ⅱまたは鉄Ⅲ)が20mg以上含まれていること
  • 泉質別適応症:鉄欠乏性貧血症(飲用)など


■塩化物泉

  • 特徴:日本では比較的多い泉質。塩分が主成分のため、保湿や保温効果があり、飲用すると塩味やダシのような味がします。
  • 温泉:黄金崎不老ふ死温泉、古遠部温泉、大牧温泉、泉水館(草津温泉)
  • 定義:温泉水1kg中に溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が塩化物イオンであること
  • 泉質別適応症:切り傷、冷え性、皮膚乾燥症など


■酸性泉

  • 特徴:世界的に珍しい泉質ですが、日本では数多くみられます。液性(pH)が酸性のため、口にすると強い酸味があり、殺菌効果もあります。
  • 温泉:松川屋 那須高原ホテル(那須湯本温泉)、泉水館(草津温泉)
  • 定義:温泉水1kg中に水素イオンが 1mg以上含まれていること
  • 泉質別適応症:アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、表皮化膿症など


■炭酸水素塩泉

  • 特徴:石鹸のようなはたらきがあり、肌の皮脂や汚れを取ってくれる作用から「美肌の湯」ともいわれています。
  • 温泉:北品川温泉 天神湯、古遠部温泉
  • 定義:温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が炭酸水素イオンであること
  • 泉質別適応症:切り傷、末梢循環障害、皮膚乾燥症など


参考:日本温泉協会温泉ソムリエ協会


※記事の情報は2023年12月26日時点のものです。

  • プロフィール画像 小松 歩

    【PROFILE】

    小松 歩(こまつ・あゆむ)
    大学在学中の2008年に、交通事故で頚椎を骨折。事故の後遺症のリハビリで温泉療法「湯治」を体験し、その効果から温泉に目覚める。今までの温泉入湯数は2,500か所以上。温泉で重視するのは「湯の鮮度」。鮮度の良い温泉を突き詰め「湯口」が大好きに。
    温泉系の資格は、温泉ソムリエ/マスター★、温泉入浴指導員、温泉観光実践士、温泉観光士などを保有。
    現在は、入浴剤メーカーに勤務する傍ら、温泉ライター/ユグチストとして活動。Webメディアでの温泉記事執筆を中心に、テレビ出演、雑誌への寄稿、大学や温泉イベントでの講演などを行う。

    Instagram:https://www.instagram.com/onsen_yuguchist/
    note:https://note.com/ayumukomatsu13/
    X(旧Twitter):https://x.com/onsen_yuguchist
    温泉会議:https://onsenmeeting.com/archives/author/komatsuayumu

連載/まとめ記事

注目キーワード

人物名インデックス

最新の記事

公開日順に読む

ページトップ