【連載】世界への挑戦! 坂口由里香のBeach Days
2024.01.16
平野早矢香, ビーチバレーボール選手:坂口由里香
ペア競技は「お互いに何が必要で何をすればいいのか」を考える 【坂口由里香×平野早矢香 対談 前編】
世界を舞台に奮闘しながらパリ五輪を目指す、ビーチバレーボール選手 坂口由里香さんと2012年ロンドン五輪で日本卓球界初の女子団体銀メダルを獲得した、元卓球選手の平野早矢香さんの対談を前後編でお届けします。前編ではそれぞれの競技の印象や、似ているところ違うところを語っていただきました。
文:吉田 亜衣(「ビーチバレースタイル」編集長) 写真:小林 みのる
卓球とビーチバレーボール、違いと共通点
平野:ビーチバレーボールは試合を何度か観に行かせてもらって、坂口さんが国内ツアーで優勝している姿を現場で見ました。砂の上で足がとられる中、コートをたった2人で動いてジャンプすることを考えると、相当ハードだなって思います。自然と戦うという運動量を考えるとビーチバレーボールは消耗がすごい。
坂口:卓球もビーチバレーボールも、同じようにネットを挟んで行う対人競技ですけど、私、実はラケット競技が苦手なんです。普段ボールを手で打っているので、卓球をやるとボールがラケットじゃなくてラケットを持っている手に当たってしまいます!
平野:わかります! 私もバドミントンをやると、ラケットの柄(シャフト)に「カツッ」と当たっちゃいますから。
坂口:テレビで卓球を観ているとボールも小さくて相手との駆け引きもあるので、すごく集中力が要りますよね。会場も静かですか?
平野:はい。最終試合で1コートになると「シーン」としていますし、観客の方も息をのんで見守るという空気感があります。ビーチバレーボールは会場に音楽も流れていますし、観客と一緒に楽しむという感じですよね。
坂口:お酒を飲みながら観ている方もいますし。逆に会場が静か過ぎると、サーブを打つ時に「めっちゃ静かじゃん」って意識してしまいます(笑)。
平野:緊張してしまいますよね。特に卓球は相手との距離が近いので、自分の動揺やメンタルの変化がわかりやすい競技。サーブを打つ時に手が震えているのも絶対相手にばれる(笑)。初めて出場した北京オリンピックの団体戦で出場した試合ではずっと手が震えてしまって、「ちょっとちょっと! 止まってよ!」と、心の中で自分の手に向かって叫んでいました(笑)。隠そうと思っても、隠せませんでした。
坂口:ビーチバレーボールでは考えていることが表情で悟られないように、天候が曇っていてもできるだけサングラスをかけるようにしています。
平野:え? 太陽の光を遮るためにサングラスをかけているんじゃないですか?
坂口:もちろんそれもあるんですけど、目の動きでどこを狙うかわかってしまったり、動揺したときに目が泳いだりするのを見られたくないというのはありますね。
平野:なるほど。相手のちょっとした行動とかミスしたときの反応とか、そういうところも私は気にしてきました。相手を分析するという意味で観察して、逆に対戦相手には自分が考えていることがばれないように気をつけてきましたね。
ダブルスではどちらか一方を徹底的に狙う
坂口:平野さんは現役時代、「卓球の鬼」と呼ばれていたんですよね?
平野:(笑)。そこは皆さん勘違いされていて。これでも試合前はトイレに2回行かないと落ち着かなかったですし、普段は人とぶつかるのは好きじゃない。「鬼」のように強くはなかったんですよ。
現役時代の私は、体格も大きくないしパワーもそんなにない。秀でた才能もありませんでした。そんな中で一番意識したことが、「相手を見る」というところで、ボールを打っていない時間に得られる情報を重視していました。
ビーチバレーボールもそうですが、卓球も自分がミスしなければ1点入る競技。自分はできるだけ100に近い力を出して、相手には100の力を出させないようにする。そんな駆け引きばかり考えていたんです。
坂口:そういう相手との駆け引きだったり、メンタルの部分だったり。ビーチバレーボールと卓球は共通点がありますね。
平野:やっぱりメンタルの部分は大きく影響しますよね。これがビーチバレーボールに当てはまるかわかりませんが、同じコースを攻めて同じように守っている場面があって、観ている人はさっきと同じプレーだと思うかもしれませんが、勝ちたくなったり、1点取りたくなると、気持ちが変わるので、全然違う状況に陥ることもある。
ダブルスでは2人のコンビネーションを崩していきたいので、どちらか一方を狙いミスをさせて、最終的には相手チーム全体を崩していく戦術は考えますね。
坂口:ビーチバレーボールも同じです! 私は身長が低いので常に狙われてばかりなんですよ。
平野:メンタル的にきついですよね。それに耐えて試合を組み立てていくのは本当にきついと思います。
坂口:「弱っているんだからもういいでしょ!」って(笑)。ただ、狙われている自分のプレーがうまくいきだすと狙いがパートナーに変わるんですよ。そのとき、いかにパートナーを助けられるかが重要で、うまく助けられないとやっぱり後悔が残ります。そういう意味で、パートナーを理解することが必要ですね。
平野:試合は苦しい場面が多いじゃないですか。そこでいろいろ工夫していいチームにしていくという作業は、やっぱり時間はかかる。
私は、監督が決めた選手とダブルスのペアを組むことが多くて、いろいろな選手とペアを組んできました。その中でわかったことは、私はパートナーから「平野さんのやりたいようにやってください」と言われてやりたいようにやることが、苦手だということでした。私自身これという大きな武器もなかったので、むしろ「どうぞどうぞ、そちらがやりたいようにやってください」というタイプで、相手に合わせるのが得意だったんですよ。
坂口:実は、私もパートナーに合わせていくタイプです。だから結構、個性が強めな方と組むことが多いですね。
パートナーがいるペア競技に求められるもの
平野:どの競技を観ていてもその道のトップで戦っている選手は、個性の塊ですよね。「鬼」と呼ばれてきた自分も含めて(笑)。合わせるのはすごく難しいと思うんですけど、そういう「合わせる」能力を持っている選手がいないと成り立たない選手もいるので、貴重な存在だと思います。
坂口:人間と人間ですから、ペアを組んでいくのに人間性は大事ですよね。ビーチバレーボールのペアは基本的にオリンピックを目標に3、4年間ペアを組むことをベースに考えますが、卓球のようにペアが変わる頻度が多いと、そこがより大事になってきますね。コミュニケーション能力も必要ですし。
平野:卓球はずっと一緒に練習できるわけじゃないんですよ。シングルスがメインで、ダブルスを練習できる時間は限られているので。所属先で選手それぞれ強化していることもその都度変わるので、ペアとして合わせた時に対応していくのも難しさのひとつ。中には、自分がやりたいことがあって意見を曲げないという選手もいますけど、それだと限界が見えてしまいます。
だから、ペアで決めた目標を達成するために、お互いに何が必要で何をすればいいのか、という視点で話ができれば、一番いいですね。
坂口:そこはビーチバレーボールと似ていますね。私は年上の選手と組む機会が多いので、自分の意見を言いにくいときもあるんですよ。もともと自分のことを前面に出すのが得意じゃないので、もっと言ってほしいとパートナーから言われることもある。でもそこで言わないほうがチームはうまくいくんじゃないかと思ってしまうんですよ。
平野:勝つために絶対必要か、そうじゃないかっていうところがひとつの判断基準ですよね。勝つために絶対必要だったら自分の意見は言うべきだし、そのとき迷ったとしても言うべき状況であれば悔いは残らない。
坂口:そうですね。パートナーも困っていることは間違いないので、そこを信じて言うように心がけています。
平野:選手たちは現役の長さ、年齢、立場などそれぞれ違うじゃないですか。だから最後は自分が納得できるかたちで迎えるのが一番ですよ。いま振り返ってみるとそう思います。結果はコントロールすることができないので、自分に悔いがないという気持ちを中心に置いておきながら、意見を伝えられるといいですね。
坂口:そうですね。そこは自分自身が成長して、パートナーといい関係を築いていきたいですね。
※記事の情報は2024年1月16日時点のものです。
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【PROFILE】
平野早矢香(ひらの・さやか)
1985年生まれ。栃木県出身。
卓球選手だった両親の影響により5歳で卓球を始める。
華卓会、城山クラブ、仙台育英学園秀光中学校、仙台育英学園高等学校を経てミキハウスに入社。
全日本選手権では3連覇、5度の優勝。
世界選手権では、2001年大阪大会から14大会連続出場を果たす。
2012年ロンドンオリンピックでは、福原愛選手、石川佳純選手とともに日本卓球界初のメダルとなる、女子団体銀メダルを獲得。
2016年春、惜しまれつつ現役を引退。
現在は、ミキハウススポーツクラブアドバイザーとして、スポーツキャスターや講演、卓球指導者として活躍中。
2022年、公益財団法人日本卓球協会理事に就任。 -
【PROFILE】
坂口由里香(さかぐち・ゆりか)
小学3年生からインドアのバレーボールを始め、中学3年生で神奈川県代表選手に選出。高校3年生で神奈川県ベスト4入り、ビーチバレーはマドンナカップの神奈川県予選で優勝、全国大会で5位入賞。その後、2014年国内ツアー入賞をきっかけに本格的にビーチで活動、2018シーズンはビーチバレージャパンで決勝進出、2021年の国内ツアーでは優勝3回、準優勝1回、3位1回、2022年は開幕戦から国内で出場した大会は全て優勝し、9月の女子アジア選手権では5位入賞、10月のBeach Pro Tour モルディブ大会でも5位入賞した。勝負強さ、安定したパス、攻撃のバリエーションで、次代を担っていくプレーヤーとして注目される。
2019年 FIVB World Tour 1star インド大会2位
2019年 FIVB World Tour 1star ハンガリー大会1位
2020年 FIVB World Tour 1star グアム大会1位
2021年 ジャパンツアー平塚大会 優勝
2021年 松山大会 優勝
2021年 ファイナル大阪大会優勝
2021年 名古屋大会準優勝
2022年 立川立飛大会優勝
大洗大会優勝
平塚大会優勝
松山大会優勝
全日本女子選手権大会優勝
Beach Pro Tour モルディブ大会 5位入賞
2022年 7月 個人ランキング1位、10月 個人ランキング3位
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